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性同一性障害理解マニュアル 第1版1998年4月

目次

LAUXESの性転換 [SRS・性別適合手術]支援サイト
質問項目:11~20
質問項目:21~30
質問項目:31~40
質問項目:41~49

おことわり
このマニュアルは学術、医療関係者のみならず、当事者、そしてその家族までも含めた、性同一性障害の人に関わる全ての人向けに書いたものです。そのため、できるだけ専門用語を廃し、証明、確立されていない部分はわかる範囲で仮定形を用いて書いてあります。また、初心者に分かり易くするために、質疑応答形式を取らせていただきました。したがって、説明が多くすでに勉強なさっている方にとってはむしろ読みづらい文章かと思います。

内容については差別的、排他的な表現にはできるだけ注意を払いました。性転換や性転換手術という言葉については特別な感情を抱いたりや誤った考えを持つ人も多いので、できるだけ使用を控えました。そのため曖昧な表現が多いため悪く捉える方もいるかもしれません。このマニュアルでご気分を害した方には深くお詫び申し上げます。
質問項目:1~10

1.性同一性障害(Gender Identity Disorder:ジェンダーアイデンティティーディスオーダー)とはなに?

性同一性障害とは「自分が身体的、社会的にどちらの性別であるかを認識していながら、精神的には自分自身の身体的、社会的な性別に違和感を抱き、または反対の性別に属していると感じ、それにより強い精神的な葛藤をおぼえ、身体的及び社会的な性別や性役割(注1)を精神の性に合わせようとする、精神の性別と生まれ育てられてきた性別との間に生ずる適応の障害です」と、書いてみても、世の中の多くの人達には理解しにくいでしょう。なぜならば、世の中の多くの人達は自己の精神の性別と身体、及び社会的な性別が食い違うということは経験できません。それ以前に、人間の性別には遺伝子の性別、身体(見かけや、外性器)の性別、社会生活上における性別、戸籍上の性別、好きになる対象の性別、精神(自分がどちらの性にに属しているかと感じる)の性別:Gender Identity (ジェンダー アイデンティティー)、恋愛の対象とする性別:Sexual Orientation(セクシャル オリエンテーション)、社会的性役割に関係する(自分が男っぽいか、女っぽいか)性別、そして性交を強く求めるとか、性交にあまり興味がないなどといった性的欲求度の強弱、など多くのものがあることを意識しません。

詳しいことは後の項でおいおい説明するとして、性同一性障害とは結論として、遺伝子の性別、身体(見かけや、外性器)の性別、社会生活上における性別、戸籍上の性別といった生まれに付随する性別と、精神(自分がどちらの性にに属しているかと感じる)の性別といった脳の性別の間に食い違いが生じ、その食い違いをどうにかして治したいと願う人達の心の障害を指すものです。

性同一性障害という言葉は精神障害を連想させるので当事者であってもこの言葉を嫌う人がいます。性同一性障害の人の多くは精神分裂病といった精神障害の人とことなり、自己の性別に対する不快感や嫌悪感を持つ以外は、健常者と同じです。このことが「自分は健常なのに障害者と呼ばれたくない。」といった意見につながっているのでしょう。しかし、これも精神障害者に対する差別であります。精神分裂病の様な精神障害者に対する差別も性同一性障害に対する差別も原因は同じで、偏った報道や世間の無理解から生じています。

(注1)性役割
性役割(gender role)とは社会や文化が、性別を基準にそれぞれの個人に対して要求する「男らしさ」「女らしさ」のことを指します。例えば「男性は会社で仕事をし、女性は家で家事をする」「男性は能動的であり、女性は受動的である」といった性別に属する役割。性役割は社会や文化はもとより、時代によっても大きく変化します。過去には性同一性障害の人にも男らしさや女らしさを計ることも行われてきたましたが、意味をなさないので、現在は行われることはありません。

2.性同一性障害にはどんな人達がいるの?

性同一性障害を理解しやすくするために、男女という既存の性別の二分制に対比して区別すると以下の3つの状態があります。

Transsexual(TS):トランスセクシュアル
性別再判定手術(注2)、いわゆる性転換手術までを望む人達のことです。自己の出生に基づく全ての性別に対し強い違和感や不快感を抱き、もしくは何事にもかえられない異性になりたいという強い考えを持ち、男性と女性という性別の二分制でいう反対の性別になろうとする人のことを指します。しかし、以下の項でトランスジェンダーにと分類されている、性別再判定手術までは望まないが、性別を移行し、望みの性別で社会生活を送っている人達もトランスセクシュアルに含めるといった考えもあります。

Transgender(TG):トランスジェンダー(狭い意味として用いた場合)
性別再判定手術までは望まないが、自己の出生に基づく性別に対し違和感や不快感を抱く人、または異性になりたいという考えを持つにもかかわらず、性別の二分制でいう反対の性別になることまでは望まない人、もしくは男女という既存の性別以外の形を望む人のことを指します。また、性別再判定手術を望んでいるが、まだ性別の移行が完了していない人や性別の移行が困難な人もトランスジェンダーとされるケースもあります。

Transvestite(TV),Cross Dresser(CD):トランスベスタイト、クロスドレッサー
いわゆる異性装者のことです。異性装者の大部分は自己の性別に不快感や違和感を持たないので性同一性障害と分けられて考えられています。彼らが異性装をする理由はフェティシズム的欲求や変身願望からだと考えられています。しかし、一部の異性装者の中には自己の出生に基づく性別に対し違和感や不快感を抱き、もしくは異性になりたいという考えを持つ人もいます。彼らのように異性装をすることで精神のバランスを取っている人は性同一性障害だと考えられます。性別を移行するための何らかの行動を起こしていないといった点で狭い意味でのトランスジェンダーと分かれるといったところでしょう。

近年は、服装が多様化し特定の活動、例えばロックバンドなどをしている場合には、たとえ男性が女性の服装を身にまとったり、化粧をしたとしても異性装とは言えないでしょう。

これらの比率は
トランスベスタイト > 狭い意味でのトランスジェンダー > トランスセクシュアル
と考えられています。これらの用語や区分は性同一性障害を診断する上では用いられてはいません。主に、性同一性障害の理解や説明の中で用いられる言葉です。実際には性同一性障害の多くの方は年齢と共に徐々に意識の状態が変化してゆく人が多く、この基準に単純に当てはまらない人も多いので単純に区別することは困難です。また、これらの分類は結果論ではないかという意見もあります。分類されることや置かれる立場により新たな差別を生む可能性もあります。また、個々によって状態や症状が変わるので、性同一性障害を深く理解してしまえば、この様に分類すること自体が無意味だと思われます。これらの考えにより、近年では性同一性障害の人全てを広い意味でのトランスジェンダーで総称しようといわれています。 医療の現場では、何らかの治療が必要であるかどうかである程度の区分けが必要とされるかもしれません。

性同一性障害の人に必要なのは「どこに属しているか」という分類ではなく、性同一性障害の人各自が自分のことを理解し、受け入れ「自分は自分である」といった考えを持つことが大切なことでしょう。同様に、性同一性障害に対峙する人も「あなたはトランスセクシュアルですか、それともトランスジェンダーですか」と分類するのではなく、一人一人をそのまま受け入れてゆくことが治療の上でも信頼関係の上でも大切なこととなるでしょう。

(注2)性別再判定手術
いわゆる性転換手術こと。外科手術で性別が変えられるわけではないので、「出生の際に誤って割り当てられた性別を、適切に再び割り当てるための手術」といった意味で用いられます1)。性転換手術の意味を正しく日本語で表すのであれば「性別再割り当て手術」といった方が適切でしょう。

性別再判定手術は sex reassignment surgery(SRS),gender reassignment surgery(GRS)と表記されますが、単にgenital reconstructive surgery(外性器再建手術)という言葉として使われることもあります。詳しくは18、19項を参照のこと。

3.性同一性障害になる原因はなに?

現在のところ、多くの精神疾患と同様に、性同一性障害の原因もまだ明らかにはされておりません。 少し前までは、「生まれてから3~5才位までの間にに精神の性別は獲得されるものでその時に性別の正しい獲得ができなかったのではないか」という説と、動物実験などから 「脳の性別の分化は胎児期に起こり何らかの原因(母体へのストレスやある種の薬物など)が、それを妨げたのではないか」という説の2つがありました。しかし、生まれつきに曖昧な性別になってしまうある種の病気の人達の研究や、子供の時に事故でペニスを失ったため、女性として育てられたが上手く適応できなかった人の例から、近年では、前者の説は少々不利になっています。そして、最近の研究で脳の性差が少しずつ解明されてきており、胎児期の障害ではないかという後者の説が有利になってきています。

以上の理由から、現在は「胎児期、および生後1才半位までの間での性別獲得の時点で何らかの障害が起こったのであろう」と考えられています。このことは性同一性障害が本人の意志の介在する前に原因があって起こることを示し、また、その原因が不明な点から親の責任ともいえません。

4.性同一性障害と同性愛(Homo Sexual:ホモセクシュアル)はどこが違うの?

同性愛というのは、自分の性別には違和感がなく、恋愛の対象が同性に向くことであります。すなわち、恋愛の対象となる性別の問題です。それに対し、性同一性障害は自分は身体はどちらの性別に属しているかをわかっているのに、心ではその性別であることに不快感や嫌悪感を抱く、性別の自己認識の問題です。つまり、同性愛と性同一性障害とでは次元の違う問題です(同性愛と性同一性障害の次元の異なりを参照)。

性同一性障害では男性(女性)(注3)から女性(男性)になりたいのだが、女性(男性)が恋愛の対象であるというような、性同一性障害であり、かつ同性愛でもあるといったこともあるのです。

また、性同一性障害であっても、成長の過程において自己の性別への嫌悪感より、同性への恋愛感情が先に表れた場合には、「自分は同性愛者ではないか」と思っていた人も少なくありません。

(注3)
性同一性障害の人を表すときに、男性から女性側へ向かって性別の移行を人を望む人をMale to Female(MTF,M2F)、女性から男性側へ向かって性別の移行を人を望む人をFemale to Male(FTM,F2M)といいます。

5.オカマやニューハーフも性同一性障害?

おかまとか、ニューハーフといった言葉は俗語であり、これといった正しい意味がつかめません。これを水商売やショービジネスなどの世界にいる人達のことを指しているのならば、この中にも性同一性障害の人がいることは確かです。

このような人々は医療や調査の場に現われにくいので正確なことはいえませんが、ホルモンの投与を受けていたり、性別再判定手術を受けている人達は性同一性障害ではないかと考えられます。また、例外として、東南アジアの一部の国では、経済的事情から性別を変えることもあるといわれています。 性同一性障害という言葉が使われるようになってからは、ニューハーフ、ミスダンディーといった言葉は職業を指すものとして使われる様になってきました。また、おかまやおなべという言葉はもっと広い範囲を指し、定義することが難しいのですが、同性愛や性同一性障害の人も含め古典的な意味で男らしくない人や女らしくない人を指す差別的な意味あいの深い言葉と考えられます。

6.性同一性障害の人はゲイバーやボーイッシュクラブで働けばいいのでは?

ゲイバーやボーイッシュクラブというものは極端に言ってしまうと「男であるのに女のような、女であるのに男のような」というイメージを売りにしている商売です。しかし、 性同一性障害である人の中には「水商売やショービジネスは嫌だ」「男性(女性)から女性(男性)へ完全に乗り越えたい」「元の性別などみじんも明かしたくない」と思っている人も少なくありません。

「性同一性障害が治療の対象である」ということが言われるまでは、「性同一性障害= ニューハーフ、ミスダンディー」といった考えしかなされなかったことは確かでしょう。 多くの性同一性障害の人達も情報の少なさ故に「ゲイバーやボーイッシュクラブのようなところで働くしかない」と考えていたのも事実です。ゲイバーやボーイッシュクラブで望んで働いている方やニューハーフ、ミスダンディーとして働くことにプライドを持っている方もいます。しかし、ニューハーフ、ミスダンディーとして働くことを望んでいたわけではなく、「経済的事情や社会の受け入れの問題のため仕方がなくその職業を選択せざるを得なかった」という人が含まれているのが現実です。

欧米においてはゲイバーやボーイッシュクラブにあたるものがほとんどありません。そのため、性同一性障害の人が社会への適応ができなかった場合、生活のために街娼として身体を売らざるを得ないことがあります。しかし、日本にはゲイバーという職場があるため、望まない売春は起こり難くなっています。また、性別の移行にあたっては著しい差別や孤独感、経済的困難に長い期間立ち向かわなければなりません。そのため、これに対抗できる精神性や知識を持たない者にとってはゲイバーやボーイッシュクラブも多少の問題はありますが性同一性障害を理解し支え合える職場として立派に貢献しているといえるでしょう。

近年では情報の増加に従い、性同一性障害であり、望みの性別での職業に従事している人々が現われるようになってきました。今後、ますます増加してゆくことでしょう。姿形や性別、思想、人種や国籍などによって職業を限定されることは民主主義に反した考え方でしょう。性同一性障害に対する社会的な受け入れの問題はともかくとして、たとえ性同一性障害であっても職業選択の自由はあります。

7.性同一性障害は治らないの?

性同一性障害を治すと言うことは、「身体の性別に精神の性別を合わせる」というものと、「精神の性別に身体の性別を合わせる」というものの2通りの方法が考えられます。

過去には、同性愛の人や性同一性障害を性欲の異常と考え世界的に多くの治療が行われた時期がありました。

例えば、「同性のポルノ写真を見せ、興奮をしたら電気ショックを与えたり、興奮するタイミングを見計らって吐き気を催す薬を飲ませる」といった嫌悪療法。男性ホルモンの働きを防ぐ薬を投与し、性的な興奮を抑える治療。精神分裂病の治療に使う抗精神病薬を投与することで、精神の活動性を押さえてしまう治療。そして、脳の一部を切り取ってしまうロボトミー手術。

しかし、嫌悪療法は、一過性に効果を示しただけで治ることはありませんでした。男性ホルモンの働きや精神の活動を抑える薬は性欲そのものを低下させる、すなわち無性愛の状態にするだけで、恋愛の対象や性別の違和感そのものを変えることはできませんでした。ロボトミー手術においては、性の問題以前に、個人の人格そのものを破壊してしまいます。

このような経緯から「恋愛の対象となる性別の方向を変える」とか、「身体の性別に精神の性別を合わせる」といった治療は現在では無効であるとされ、特別な事情が無い限り行われることはありません。

そして、現在では同性愛や性同一性障害は恋愛の対象や自分の性別の認識以外には問題はなく、人格も正常であるということが認められており、すでに同性愛は治療の対象から外されています。また、様々な研究から同性愛や性同一性障害の人は脳の性別を決めるどこかの部位に問題が起こったものと考えられております。

現在の医療水準では脳そのものを治療することで「恋愛の対象となる性別の方向を変える」とか、「身体の性別に精神の性別を合わせる」といったことは不可能です。そこで、 現在は「精神の性別に身体の性別を合わせる」といった治療が性同一性障害に行われていますが、実際に病院で行える治療は「精神の性別に身体の性別を合わせる」ということの手助けに過ぎません。

望みの性別になるということは、その性別で生活して初めて獲得するものであって、ホルモンを使おうが性別再判定手術をしようが、それだけでは望みの性にはなれないのです。すなわち、病院での治療が全てではなく、多くの問題は自分で解決しなければならないのです。

病院で行えることは、大別すると3つに分けられ、精神科的治療、内分泌的治療、外科的治療となります。

精神科的な治療とは、精神科医やカウンセラーが性同一性障害である人の状態を診断し、その状態に合わせて悩みを聞き、「どうしたらよいのか」という悩みを解決する方向を見つけられるように手助けをすることです。内分泌的な治療とは、精神の性別と身体の性別の食い違いから生じる葛藤の強さに合わせて、精神の性別に身体の性別を合わせるための手助けとなる、性ホルモンの投与をおこない、外見の変化を促し、望みの性別での社会参加をしやすくすることです。外科的治療とは、更に望みの性別での生活に適応し、それでも精神と身体の性別に違和感を抱く人に対して性別再判定手術などを行うことです。

このほかに、性同一性障害の人では乳房の切除や、喉ぼとけの切除、豊胸、顔の形成など、性別の移行に必要とされる手術も性別再判定手術に含まれて考えられています。どこまでの処置が必要であるかは、患者や医療者によって異なることでしょう。この処置は美容外科とはことなり、患者の望みをかなえるということではありません。平均的な男女として見ることを難しくしている部分を修正する範囲でおこなわれます。

前項でも述べましたが、人間の性別を構成するものには多くのものがあります。そして、性同一性障害である人の性別に対する違和感の強度も様々です。ですから、この治療のどこで満足するかも各々違いますし、性同一性障害であっても病院での治療を必要としない人もいます。

8.性同一性障害は病院に行けば治るの?

7の項で述べましたが、「身体の性別に精神の性別を合わせる」という意味では現在は治らないと言うべきでしょう。そして、「精神の性別に身体の性別を合わせる」 と言う意味では病院での治療が性別に対する違和感を取る手助けをしてくれると言ったところでしょう。

病院に行けば何とかしてくれるわけではありません。多くのことは自分自身で解決しなければならないのです。そのために、日本では幾つかの自助グループと情報誌があります。

9.性同一性障害はどんな治療をするの?

治療は、何段階かに分けて行われます。細かいことは他の項で述べていますのでここではその概略だけ説明いたします。

初めに、性別を変えたいとか、性別に違和感があり何とかしたいと思い病院にいきますと、本当に性同一性障害であるのかどうかの疑いがかけられます。まずは、他の先天的な病気や精神の病気ではないかとも疑い、検査や面接などで性同一性障害かどうかを判定します。そして、性同一性障害であった場合は、まず精神科療法が開始されます。基本的には話をひたすら聞くといったような、受動的な面接が行われます。具体的に言うと、様々 な話の中から、その人の経緯や精神状態を計り、判断し、一人で抱えている苦悩を解放させ楽にしてあげ、次の治療の必要性を見極めるといったことでしょう。また、必要に応じて、誤った考えを取り除いたり、何をすべきかを指示することもあります。

治療を受ける者はこの間に望みの性別に移行する試みを開始し、内分泌的な治療、すなわちホルモン療法に向かいます。内分泌的な治療が十分に効果を果たすには少なくとも1~2年以上はかかるでしょう。この間に望みの性別への移行を更に進め、同時に精神的変化も精神科医などにより十分に観察されます。

そして、望みの性別として適応でき、現実見当にも問題なく、更に手術を望む人に限り、性別再判定手術が施行されます。

治療を受けた者は、たとえ手術を終えても、その後、様々な問題を抱えて生活をしていきます。それに対処するために、彼らには精神的な支えが必要とされつづけます。そう言った意味では、本当の意味での治療の終わりはないと考えられます。

また、全ての治療を進める上で重要になるのは、自助グループなどの支援だと思われます。

10.性同一性障害の人達はどんな生い立ち?

人によって様々です。身体的には女性(男性)であるのに「物心ついたときから、自分は男(女)だったと思っていた」という人から、「女性(男性)であることが嫌だ、異性になりたい」という思いが何となくあったが、「そんな考えはおかしい」と押さえ、生活しているうちに、ある時その感情が押さえきれなくなって自分が性同一性障害だと気がつく人もいます。

前者の場合、幼い時から異性らしく振る舞ったり、中学、高校での性別の区分けに耐えきれなくなり登校拒否や退学してしまうこともあります。また、第二次性徴に苦しむ人もあります。

後者の場合、何とか身体の性別として生活しようと努力するため成人を迎えてから行動に移すことが多いようです。それまでは普通に過ごし、目立った特徴もなく健常な人とあまり変わりがありません。 その中には、自分の精神の問題を治そうと努力する人もみられます(このことをセルフテストという。)。男性から女性へなりたいと感じている人の場合は、より男らしく振る舞ったり、男らしい職業に就いて自分を治そうとする方がいますし、女性から男性になりたいと感じている人の場合は、結婚、出産をして治そうとしてみる方もいます。

性別に対する違和感より先に、同性に対する恋愛感情が先に自覚され、同性愛者だと思ってたという人も少なくありません。

実際はこれらが混在していることが多く、そのことが自他ともに判断を難しくしています。

質問項目:11~20

11.性同一性障害の傾向を持つ人の特徴は?

性同一性障害である人のなかには、幼児期や学童期からその兆候を強く見せる人も存在します。

幼児期
性同一性障害の強度が高い者は、出生の性別は男性なのに女性と思っていたり、女性なのに男性だと思っていることがあります。服装や遊びや行動は出生の性別とは異なった方を好み、女児においては大人になればペニスが生えてくるものだと思っている者もいます。また、行動には目立った点はなくとも、この頃より性別を変えたいと空想したり、 願ったりしている者もいます。

小学校期
女児であるのに男性的に振る舞ったり、スカートなど女児の服装や持ち物を強く拒んだり、男児なのにおとなしくなよなよしていたりと行動に強く現われてくる者がいます。男女分けを嫌う者も現われてきます。女らしくない、男らしくないことを理由に仲間外れにされたり、いじめに合う者も現われ、登校拒否にいたる者も現われてきます。この頃より出生の性別からみて同性となる相手に恋愛感情を抱く者も現われてきます。しかし、その感情は自分を出生とは逆の性別になったイメージで、つまり異性愛として捉えていることが多いようです。

第二次性徴期
幼いときより自己の性別に対する不快感、違和感が強い者は、この時点でかなりの葛藤をみせます。性同一性障害の傾向を見せる女児の場合は、特に月経の発来により自分の身体が女性であることを絶対的に思い知らされます。以後、月経の度に多くの者が精神的な苦しみを訴えます。また、胸の発達も嫌悪し、胸が目立たない服装を選んだり、コルセット等で押さえつけたりします。

性同一性障害の傾向を見せる男児の場合は声変わりを押さえようと賢明に高い声を出す努力をしたり、生えてくる髭を毛抜きで抜いたり、ペニスを目立たないようにサポーター などで押さえたり、紐などで縛ったりといった行動がみられます。

自慰行為に付いては様々ですが、出生がどちら性別でも、自分が性別を移行したことを空想をして行う者が多いようです。

中学・高校期
制服を拒む者が多く、著しい男女分けにより、学校での無為や学業不振、登校拒否、または葛藤から逃れるために問題行動を見せる者が現われてきます。

特に、性同一性障害の傾向を見せる女子の場合は、男女分けや女子の制服に耐えられず、高校進学を断念する者や、中途退学する者も少なくありません。

制服は性同一性障害の傾向を見せる男女どちらにとっても象徴的に映るらしく、女子の場合は男子の制服にあこがれ、男子の場合は女子の制服にあこがれ、隠れて異性装をする者も現われてきます。

12.性同一性障害の人達が生活に困るのは?

すでに、生活上の性別を変えている人にとっては、戸籍に基づく問題と、多額の治療費の捻出が大きな問題でしょう。戸籍は、就職の際に求められる書類から、各種免許証、保健証、選挙の投票用紙にまで影響が及び、望みの性別での社会生活や参加を困難にします。また、現状では望みの性別としての結婚は不可能です。

生活上の性別を変化させている途中の人や望みの性別に見えない人、既存の男女二分制、すなわち、男か女かの2通りしかない性別以外の形を望む人にとっては、生活上に現われる全ての性別の区分けが問題となります。そして、そのような人や望みの性別に適合したが元の性別を知られてしまっている人は社会の無理解による差別に常にさらされます。

13.性同一性障害の人はどの位いるの?

日本精神神経学会の発表では日本には2200人から7000人程度の性同一性障害の人がいるだろうと推測されています。世界の報告を見るとその数は様々で、少ない国では国民当たり、約5万人に1人、多い国では約3千人に1人の割合でいるのではないかと報告されています。

しかし、これらの数字はその国の性同一性障害に対する医療の受け入れ体制や、社会の寛容性にかなり影響していると考えられています。また、性同一性障害であっても、医師による治療を必要としない人はこの数に含まれていないでしょう。ですから、ここに出ている数字は医療者から見た、なんらかの治療を求めてきた、もしくは求めてくる性同一性障害の人の数に過ぎません。

日本のように、性同一性障害の人が長い間正規の医療から無視されてきて独自の抜け道を持っている場合は更に正確な数を知ることは困難でしょう。

14.名前や戸籍の性別は変えることができる?

名前の変更については、現在は比較的容易になりました。通名として永年使用したという記録と医師による診断書や必要理由書が有効だといわれています。しかし、名前の変更は各家庭裁判所ごとに基準がことなるため、これが絶対という条件ではありません。

残念ながら日本においては、戸籍の性別については、公になっている記録の上で、性同一性障害を理由に変更できた例はありません(民事裁判なので家庭裁判所で許可が出た場合には、非公開とされている)。しかし、諸外国においては基準は様々ですが性別の変更が認められている国も少なくありません。この場合、戸籍制度というものを持つ国は日本以外にありませんので、出生証明書などの変更となるでしょう。

15.学校や就職などはどうするの?

日本のように中学、高校で男女の区分けがはっきりしているような場合は、制服の着用の拒否や、男(女)らしくないため受けるいじめ、仲間に入れない孤独感などから登校拒否や退学などしてしまう場合もあります。このようなことは幼い頃から自分の性別に強く違和感を抱いている人の場合にしばしばみられます。

大学や専門学校などに進学した場合は、社会的にかなり自由なので、この間に性別の変更を行おうとする方も少なくありません。

会社に入ってから、性別の変更を試みる方は、その方法があまりに様々なので一概に答えることができませんが、周囲の状況を見つつ望みの性別らしい部分を取り込んでゆき、適当なところで転職するような人が多いように見受けられます。

性別を変更した方の就職は、性同一性障害に理解のある会社に就職する人や、契約社員やアルバイト、雇用保険の付かない会社などへの就職が多いようですが、望みの性別として誰にも知られることなく正社員で就職する方も増えています。また、様々な理由から水商売などを選択する人もいますが、望みの性別で就職する人もいれば、ニューハーフやミスダンディーといった形を取る人もいます。これらの職業とてなんら差別されるいわれはないでしょう。

16.「生まれたときから体は男(女)なのに自分は女性(男性)だと思っていた」とか、
「物心ついた時から恋愛の対象が同性だった」と言っている人がいますが、それは本当?

性同一性障害の全体からみると、「生まれたときから、物心付いたときから、自分は身体は男(女)なのに自分は女性(男性)だと思っていた」という人は少ない方です。しかし、治療を求めてくる性同一性障害の人の中では少なくありません。

実際は成長と共に自分の性別に対する違和感や恋愛の対象の問題に気が付き、ある点で耐えきれなくなるといった場合の方が多いようです。そして、きっかけとなるのは第二次性徴、進学、就職、結婚、出産、マスコミなどによる性転換に関する報道などが多いように思われます。しかし、この様な人の幼いときの話を聞いてみると幼いときから何らかの性別に対する違和感や不快感が有ったことがうかがえる場合が多いようです。人間の性別に対する意識や役割は成長と共にはっきりしてゆきます。つまり、幼い時は男女の区分けがそれ程強くないため、性同一性障害であっても自分の性別に対する不快感、異性に対する恋愛感情も低いためではないでしょう。

17.ニューハーフやミスダンディーの人達の中には綺麗な人やかっこいい人もいますが、どうしたらあんな風になれるの?

テレビや雑誌で見かける中には綺麗なニューハーフやかっこいいミスダンディーと言われている人を見ることが確かにあります。しかし、それはショービジネスですから、綺麗になろうとするための色々な努力があってのことでしょう。

それ以外の職業に就いている性同一性障害の中にもかっこいい人や綺麗な人もいますが決して多いとはいえません。

性同一性障害の人達はホルモン投与などをして1ー3年の時間をかけて容姿を変化させてゆきます。その結果、元から想像できないくらい劇的に変わってしまう人もいますし、 そうでない人もいます。容姿をかえるということは、一瞬にしてできるわけではないので、「この人がどうなる」といった予測はかなり困難です。外国では性別の二分制に適応するためにかなり大胆な顔の形成手術などを行っているようです。これを生活のためと考えるか美容のためと考えるかは手術を求める患者の状態によって左右されるでしょう。

18.性転換手術は美容外科の類ではないの?

性転換手術という言葉は性別を意図的に変える印象がありそう考えるのも当然でしょう。美容外科というのは身体の醜い部分や気に入らない部分を修正する手術ですから、気に入らない性器を変える性別再判定手術は美容外科に似ているように見えます。特に、 「自分に与えられた身体を受け入れられないなんて、精神の弱い奴だ」とか、「親からもらった身体を傷つけるなんて許せない」と思っている人からすれば究極の美容整形に思えるでしょう。しかし、望む性同一性障害の人に性別再判定手術、すなわち性器の形成手術だけをしたところで、その人が望みの姿になれる訳ではないのです。気に入らないとか、 嫌いという言い方ををするならば、性同一性障害の人は性器の性別が嫌いなのではなく、 自分の出生の性別とそれに基づく全てが嫌いなのです。

性別再判定手術はそれを望む性同一性障害の人に対し、性別を移行するためのプログラムを課し、容姿や仕草、生活などが望みの性別として適合したうえで、初めて検討されるものなのです。すなわち、性別再判定手術というのは精神と身体との性別の食い違いを合わせる治療プログラムの一つであり、全てではないのです。新たな性別での生活の通過点に過ぎないのです。

例えば、この治療プログラム抜きに性別再判定手術が行われたとしましょう。このとき手術を受けた患者が「手術さえ受ければ全てが変わる」と思っていたら、大変なことになります。実際には変わったのは外性器の形だけであり、その人の生活は何も変わっていないのです。例えば、女性になりたいのだけど、容姿も生活も男性のままで性器だけは女性型というような状態となり、今度は手術後の現実とのギャップを苦しまなければなりません。もしこのようなことになっても、後戻りはできないのですから。

19.性転換手術とはどんなことをするの?

「性転換手術」(注4)とは、Sex Change Surgeryではなく、Sex Reassignment Surgery: 「性別再判定手術」と現在はいわれています。もちろん日本では「性転換手術」といっても差し支えはありませんが、正確な意味でいって現在の医学技術では性別を転換する手術などありえません。たとえ男性から女性になるために手術を受けたとしても、子宮や卵巣を作るわけではないので、出産はおろか月経もありません。女性から男性の場合にしても同様で、射精や性的興奮にによるペニスの勃起は得られないのです。性別再判定手術というのは多くの治療プログラムを受け、多くの点で望みの性別として適応が認められる際にかぎり、身体面でその人の性別のアイデンティティーを確実なものとさせる手術。すなわち、性別の変更をする手術ではなく、その人の性別を新たに確定させる手術なのです。そして、手術の意図は外見的に望みの性別の身体に似せ、性交にあたっても望みの性別に近い機能を付けさせるものです。

男性から女性への移行ための手術は、まず、睾丸と陰茎海綿体が取り除かれます、最近では、亀頭部の一部を神経と血管をつなげたまま新たな性感のあるクリトリスとして作り替えます。新たな膣を作成するにはペニスと陰嚢の皮膚を使う場合と、S字結腸を使って作る場合があります。

機能的には、前立腺や残存している陰部神経などから性的刺激を受け取れるようです。亀頭部の一部を用いてクリトリスを作成した場合には元にあったような十分な刺激を感じることができるようです。新生された膣はS字結腸を用いた場合は自然なものに近く分泌があります。しかし、合併症が起こりやすい、分泌物が出すぎる、臭うなど、また手術の範囲が大きいなどの欠点もあります。ペニスと陰嚢の皮膚を用いた場合には自然な分泌が起こらないのですが、手術範囲が小さいため合併症などが少ないという利点があります。 現在のところ、どちらの方法を使っても満足なものができます。しかし、様々な理由からペニスと陰嚢の皮膚を用いる方法が主流になってきています。そして、外観もかなり自然なものに近くなっています。男性から女性への移行のための手術は世界的にもかなりの症例があり、ほぼ完成されたといって良いでしょう。

女性から男性への移行のための手術は、男性から女性へのそれと比べ、非常に複雑で通常は何回かに分けて行われます。初めに、婦人科領域で行うような卵巣や子宮の摘出を行います。

ペニスを作るには何種類もの方法があります。男性ホルモンの投与でである程度大きくなったクリトリスを持ち上げ、マイクロペニス(極めて短小のペニス)を作る方法。おへその下の皮膚を丸めてチューブを作る方法。そして腕や足の皮膚を血管と神経ごとはがし、それを丸めペニスとし、顕微鏡の下でつなぐ方法などがあります。

日本で行われようとしているものは、最後のものです。この方法で作られたペニスは感覚も形状も自然のものに近いのですが、顕微鏡下での複雑な手術を要します。他の2種類の方法では大きさが十分でなかったり、立位での排尿が困難であったり、感覚に問題があったりしました。しかし、この方法はそれを克服しています。自然な勃起機能こそありませんが、それを軟骨などの柔軟な支持剤を入れることによって補っています。しかし、 手術が複雑となるため、合併症が多いことと、移植用の皮膚を取った場所が大きくの傷跡となってしまうのが最大の欠点です。
(注4)
日本では「性別再判定手術」に対し「性転換手術」という言葉が広く一般に用いられています。日本語では漢字と意味が違う言葉も多いので問題はないでしょう。しかし、間違ってもこれを(Sex Change Surgery)となどと英訳すことがないように気を付けて下さい。かなり恥ずかしいことです。

20.性転換手術以外の外科的治療はなに?

通常は性別再判定手術を狭い意味でとらえ「女性器を男性器に、もしくは男性器を女性器の形状に変える手術」をさします。しかし、2、7項で述べたように性別再判定手術は「出生の際に誤って割り当てられた性別を、適切に再び割り当てるための手術」という意味を持っています。このことから、性別再判定手術を広い意味でとらえた場合には「性別の移行のために必要な全ての外科的処置」と考えられています。

性別再判定手術の中の性器以外の処置には以下のようなものが含まれます。

現行の性別の二分制に基づき、男性から女性への移行を求める人であったら、豊胸、喉仏の削除、顔の形成、髭の永久脱毛、声帯の手術が、女性から男性への移行を求める人であったら、乳房の除去、顔の形成などが性別を移行するために必要な処置も性別再判定手術の範囲に含まれています。しかし、性別を移行する人の状態によって必要とされる処置が一人一人異なりますので、それが性別の移行のために絶対に必要なものか、個人的要求なのかを医療者によって見分けられなければなりません。これらの処置は患者の希望も含め、平均的な男女の枠を超えない範囲で行われるでしょう。

また、男女という現行の性別の二分制以外の性別に向かう人達の場合ではどの処置が必要であるかを判断することが難しくなるでしょう。

外国においては、すでに性別の移行のために必要に応じて大胆な顔の修正などを行なわれています。日本でもニューハーフとして働いている人々の中にはかなり大胆な顔の形成手術を受けている人がいますがが、こちらは美容外科としての部分もかなり含まれているでしょう。
質問項目:21~30

21.性転換手術を受ける人は男性なのに男から愛されたいから、
もしくは女性なのに女を愛したいからというのは本当?

これは間違いです。このように答える人もいるでしょうが、むしろこの人自身が言葉をしらないためか、人々を喜ばせるためにそのような回答をした、もしくは周りのみんながそういっているのでそのように答えているといったことが考えれれます。このような回答をする人は、自己の性嫌悪感より先に同性愛感が現われた人や性嫌悪感より同性に対する感情が強い人が想像することができます。また、男性の同性愛者で女っぽい人や女性の同性愛者で男っぽい人ともいますが、彼らは自己の性別や性器を変えようなどとは考えません。もしこのような人が性別の移行を望むのであれば、改めて性同一性障害を疑うべきでしょう。

22.男(女)にしか見えない人も性転換するの?

現行の性別の二分制からみた場合、あらゆる手を尽くしても、性別の移行が難しい人がいるのは確かです。このような人に安易に手術をしてしまうと、何も変わらない現実とのがギャップのため新たな精神的苦悩をもたらす場合があります。しかし、何もしないということもその人にとっての苦痛でしかありません。

このような人の場合、十分な治療プログラムを受け、その人が自分の置かれている状況や手術を受けても生活は変わらないことを完全に理解し、せめて変えられるところだけでも変えて欲しいと強く願っている場合にはできうる処置の全てが検討されるべきでしょう。また、現行の社会での性別の二分制はどちらの性別にも属せない人の社会適応を難しくしています。そのため、「様々な性のあり方を理解してもらい、それを理解し受け入れてもらおう」といった考えもあります。

どちらにしても、今後の検討されるべき課題であり、多くの人が当たり前と思っていることに対し問題を投げかけることになりますので、その答えが出るまでには時間のかかることでしょう。

23.異性装すなわち、女装者がエスカレートしてニューハーフになったり性転換する人がいると聞きましたが、それは本当?

女装が高じて性転換」なんていうことは正確な意味でいうとありませんが、性同一性障害である人で「昔はサラリーマンで女装サロンに通って我慢していたが、今は性転換してゲイバーでニューハーフをしています」といったことはありえます。

性同一性障害に関する人々を現す言葉には、女装者とかトランスベスタイト、クロスドレッサー、トランスジェンダー、トランスセクシャル、ニューハーフ、など色々なものがありもす。これらは様々な性同一性障害の人の状態を現すとき、また自称するときに使われます。

これらの言葉で現す状態は固定的な場合と、変わってゆく場合があります。例えば、「私は異性装者です。性別を変えようなんて思ったことがありません」と言い切る人もいます。

また、状態が変化する例として、小さい時から女性になりたいと感じていた生まれながらの男性がいたとします。その人が青年期を迎え「女性になりたいなどおかしな考えだ」と悩みつつも、苦悩の果てに隠れて異性装を始めるとします。この時点では自他共に「異性装者」なのです。その後、普段でも男でも女でもないような格好を仕始めたとすると「トランスジェンダー?」といった風に思われるでしょう。そして、この人がゲイバーで勤めるようになると「ニューハーフ」と呼ばれるようになります。更に、この人が身のふりを上手くこなし、女性として就職できたすれば、過去を知らない人からは「女性」としてみられるでしょうし、過去を知っている人からすれば「トランスセクシャル」といった風に感じるでしょう。

24.性転換をしても頭の中は男(女)のまま?

普通、人が生活する上で性別というものの意識はあまりありません。なぜならば自分や他人がどちらの性別に属しているなんてことは当たり前のことだからです。しかし、人は無意識のうちに相手をどちらかの性別であるかを判断しているようで、性別のはっきりしない人をみると戸惑いを生じます。

性別の二分制の下でどちらかの性別に移行をする人は実生活の上で「この人は男?女?」といった感じを相手に与えず、自分自身も「相手は私の男、女どっちだと思っているのか?」と意識しなくなる状態まで持っていかねばなりません。これは真似や演技などでこなせるものではありません。

実際には、性別の移行を望む人は実生活体験もしくは実生活テストといわれる(注5)と呼ばれる治療プログラムの中で、移行すべき性別の中に入り生活をし、そのあり方を身につけます。

性別の移行をする人の中には、幼いときから何もせず、男性なのに女っぽい人や女性なのに男っぽい人もいます。しかし、多くの人は出生の性別様式に準じて生活を送ってきています。この方々は性別を移行する時に何をしていいのかわからず、取りあえず、自分がなりたいと思う人の姿をまねてみたりと試行錯誤します。

また、男性から女性に移行しようとしている人の中には過剰に女性らしく、女性から男性に移行しようとしている人の中には過剰に男性らしく振る舞う人もいます。その姿は男性の目から見た女性の姿であり、女性の目から見た男性の姿であるように見えます。ようやく望みの性別としての行動が認められたために、思春期の子供のようにはしゃぎすぎる人もいます。こういった間違いを治すためにも実生活体験を行い、男らしさとか女らしさを身につけるというより、男性(女性)だっだら、こういうことは絶対にしないということを身につけるのです。

現代は性別の二分制を考えた上でも男っぽい男の人や女っぽい男の人、女っぽい女の人や男っぽい女の人と様々な人がいます。ですから、普通の男性や女性であっても、こういうところが男っぽいとか女っぽいと感じたことはないでしょうか。性別を移行した人にしてもその程度に過ぎません。ただ、性別を移行した人達は彼らの過去の性別を知っている人達からみた場合、元の性別の部分を強く捉えられ「やっぱりこの辺が男(女)だ」といわれることはよくあります。また、性別の移行をしている人が親、兄弟や昔からの知り合いと接する際には、振る舞いや接し方が元の性別で接していたときに築かれたものとなってしまうことがあります。これは、親や兄弟や古い友人とは元の性別で長い時間かけて人間関係が形成されているためです。性別を移行する前に会得した趣味や好みなども、たとえ移行した性別にあまりふさわしくなくとも変わらないようです。

これらの問題を指摘し、「あなたは絶対移行した性別であるわけがない」と性別を移行した人の事実を受け入れない人もいます。
(注5)
実生活体験:real life experience、実生活テスト:real life test 性別の移行を望む者が、移行を望む側の性別として生活を送り、その性別での振る舞い方や適応を身につけるための体験です。これは、限られた時間だけ移行を望む側の性別として生活を送るパートタイムと、全ての時間にわたって望みの生活として生活するフルタイムとにわけられます。実生活体験は医療者が患者の判定のために行うものではなく、自分を試すために行われるものです。

25.病気だとしても性別を変えることは生殖倫理や宗教倫理に反し許されるの?

性は神聖なものである。男女の性別も絶対不変であり、そこから逸脱するなどおぞましく、倫理的に許されるわけがない」とお考えの方も多くいらっしゃると思います。

キリスト教を始め幾つかの宗教では異性装すら禁じているので性別を変えるなどといったことは許されないことでしょう。聖書では「神は七日でこの世を作られた」と、おっしゃっています。しかし、現在では約四十六億年かかってこの世界があることがわかっています。そのことを「神と我々とは時の流れが違う」といって解釈するように、性同一性障害も柔軟に解釈できないでしょうか。二千年前の我々には理解できなかった神の言葉もあったはずです。

また、生殖の義務に逆らって生きることを問題にする人もいるでしょう。性同一性障害の人達も人の親から五体満足で生まれてきました。世の中には子供を生まない人や作れない人もいます。特に、子供を作れない人からすれば、自分の意志で生殖を不能にする性別再判定手術なんて信じられないことでしょう。ただ、現在の性別再判定手術では生殖機能を持たすことができないだけであって、性別を移行する人でも同じ気持ちです。違う点は、「自分は女性(男性)であるのに、身体は男性(男性)であり、この身体での生殖は強姦に等しく考えられない」ということであり、「移行した性別の身体で好きな相手との子供がほしい」と考える人もいます。

特に、「自分は男性(女性)として生まれてきて良かった」と強く感じている人や精一杯男性(女性)として生きてきた人達からすれば「性別を変えようなんて許せない」「たとえどう見えようが元は男性(女性)だったんだ、気持ち悪い」「男性(女性)でいることが嫌だなんて、与えられた宿命からの逃げでしかない」などの答えが返ってくるでしょう。

性別を変えようとしたり、現行の性別の二分制以外の性別になろうとすることで得られる利点はあるでしょうか。地位も名誉も捨て、差別を受け、仕事に就くことすら難しく、 それでいて望み通りになるかどうかわからない長い治療を受けるのです。華やかに見えても、ごく限られた人が得られる一時の華やかさに過ぎないのです。後は、長い期間、生活の不安を抱かなければなりません。

多くの健常者は障害を持つ者に対し往々にして嫌悪感を抱くことがあります。生理的に受け入れられないのは仕方がないとして、せめて理解だけでもできないでしょうか。無知こそが最大の差別でしょう。

26.外国で性転換手術が受けられるのに国内でする必要があるの?

国内で治療できることをわざわざ外国にまでいって手術を行う利点があるのでしょうか。あるとしたら、「日本では性風俗を乱すようなことは許すべきではない」ということだけでしょう。

欧米でも性同一性障害の治療に当たって、日本が行おうとしているのと同じ様な厳しい基準があり、外国人がそれをこなすには大変な時間と費用がかかります。また、基準の緩い東南アジアで手術を受けてきた人の中には満足な結果が得られなかったり、合併症で苦しむ人が多くいます。どんなことであろうと手術を希望する人は現われます。ならば、しっかりした基準の下で十分な治療を受けられるようにすることが不幸な人を作らない最良の方法ではないでしょうか。

27.She male(シーメール)のように女性の姿をして男性器を付けている人のポルノがありますが、あの人達はなに?

性同一性障害の人の中には、「生活や外見の性別は変えたいが性器は元のままがよい」という人もいます。この様な方がその特殊性を売りにして生活している場合と、性別の移行を望む人が生活上やむなく演じている場合が考えられます。どちらにしても男性からみたイメージで作られた商業的ものであり、それらの人達を正しく表しているとは考えられません。

28.ニューハーフヘルスという半ば性を売りにしたところがありますが、あれはなに?

姿は女性なのに男性器が付いている人や、性別再判定手術を受けた人が男性の相手をする風俗産業の一つです。

すでに、8項で述べましたが、日本においては少なくとも身体を売ること以外の職業を選択できます。ですから、ニューハーフヘルスという職業を選んだのは何らかの理由があってのことでしょう。たとえ性同一性障害であっても性に対する個人の価値観は異なります。将来的な生活の問題や、感染症などの問題を残しますが、自らの意志でその職業を選択したのであれば問題はないことと思われます。

29.性転換して望みの性別で生活している人なんて本当にいるの?

性同一性障害者の各サポートグループの参加者などから推察すると、性転換の意味を男女という社会生活上の性別を変えることとして考えた場合には、性別を変えて生活している人は日本国内にも100人程度はいると思われます。しかし、この中で性別再判定手術をしている人はわずかでしょう。

性別の移行を行った人達の多くは、過去の交友関係を断ち、元の性別を知られまいと密かに生活しています。

望みの性別で生活するとは自他ともにその人の性別について意識しないが、無意識のうちにどちらの性別であるかを判断されるようになるのが究極の状態です。この状態に達するには長い時間と労力、そして運を必要とします。しかし、元の性別を知られてしまうと、この状態は一瞬に破綻しまいます。たとえ望みの性別として問題なく見えても、元の性別を知られてしまうと様々な点で性別を意識し、また、意識されるようになります。また、心ない人から差別を受けたりもします。

性別の移行が上手く行えた人達は性同一性障害の自助グループからも遠ざかってゆきます。なぜならば、彼らは普段、性別を意識しないで生活をしています。しかし、彼らが自助グループに参加したときは性別を意識し、また、意識されるので、それが苦痛となるためです。

彼らの様な姿を現すことが少ない人の数を正確に調べることは不可能でしょう。

30.どんなに上手く化けても、容姿ですぐに元男性(元女性)と分かってしまうのでは?

男女の二分制のもとで、望みの性別として上手く適合できた人の中には、他者から見た場合まったくわからない程、完璧な人もいます。また、望みの性別の中にも「この程度の男性もしくは女性はいるな」といったレベルの人もいます。 私達が相手を男性か女性かと判断する情報はなんでしょうか。それは、大きく分けて、外観と仕草、そして声などでしょう。例えば、男性なら、身体が大きい、背が高い、筋肉質、肩幅が広い、胴が太い、 胸板が厚い、髪が太く短い、肌の色が黒い、髭や体毛が濃い、手足が大きい、喉仏が高い、直線的な動きをする、声が低い、などといったことであり、女性なら、身体が小さい、背が低い、丸みを帯びている、肩幅が狭い、お尻が大きい、ウエストがくびれている、胸が膨らんでいる、髪が細く長い、手足が小さい、声が高い、仕草が柔らかい、などといったことでしょう。

これらを一つ一つとっていきますと、「身体の小さい男性だっているじゃないか」「手足の大きい女性だっているじゃないか」ということになりますね。しかし、総合的に見たらどうでしょうか(1次元からみた性差を参照)。例えば、背が低く、身体がきゃしゃで、髪が細く長く、ウエストがくびれていて、声が高く、しかし仕草が直線的で男らしいといった人を想像して、この人が男性であると判断する人は少ないでしょう。もし、男性と判断しても子供を想像するのではないでしょうか(2次元からみた性差を参照)。

この様に望みの性別に適合するということはこの情報が総合的に判断され、その値がどちらの性別の分布にあるかどうかで、対峙している人が相手をどちらの性別であるかを判断しているのです(n次元からみた性差を参照)。また、これらの情報も一つ一つの重要性が異なり、どこからが男性的でどこからが女性的であるといったことも一つ一つ異なっています。例えば、声や胸の膨らみ、などはかなり強い性別の判断材料です。それに対し、身長は女性で平均158センチ、男性で170センチ位となっていますが、最近は1 70センチを越える様な女性も珍しくありません。しかし、この身長も180センチを越えると女性では非常に少なくなり、女性と判断されるには負の情報となるでしょう。このことは特に次のようなことの問題ともなります。

複数の生来的な男性の中に、一人の女性から男性に移行した人がいる場合、他の生来的な男性に同化して見られるので、元女性として見破られる可能性は低くなります。しかし、女性から男性に移行した人だけの集団を見た場合は、生来的な男性ではあまり見られない特徴の部分が強く目に付くようになり、生来的の男性とは違う何らかの雰囲気を感じる様になります。これは男性から女性に移行した人でも同じことで、むしろ、男性から女性に移行した人の方が集団で集まった場合の方が、女性から男性に移行した人達より目立ち易いでしょう。

(この部分は、男性→女性、女性→男性の合成連続写真、グラフ等)
この人は元男性とか元女性などといった情報が前もって与えられた場合や、性別を移行した人が多くいると予想される場所においては、見る側もその情報に基づいた見方をします。この様な場合では、たとえ普段は望みの性別として通用していたとしても望みの性別として見られないことも少なくありません。

例えば、望みの性別として男性から女性に十分に移行した人がいるとします。この人に対峙する人が、この人が元男性であることを教えられていたら、背が高めだ、声が低めだ、顔がどことなく男ぽいなどと、その人の男性らしい部分に目がいってしまうでしょう。しかし、何も情報を与えられなければ、「女性にしては背が高いのね」などと思いはするものの、「この人の仕草は女性らしい」などと思うでしょう。そう、これは心理学の初歩的な問題でもあります(男女を一定割合で混ぜた合成写真を参照)。

不幸にもどんなにしても望む様な性別に見えない人もいます。また、性別の二分制以外のありかたを望む人達も、男女のどちらかしかない分け方をしたら奇妙な姿に見えるでしょう。この様な人は既存社会の男女の二分制では収まりません。この様な人を社会が受け入れていくには、皆が性問題の理解を深め、受け入れの方法を考えなければならなりません。では、どうすればいいのでしょうか。第三の性別を作ればいいのでしょうか。それとも性別を自己申告制にすればいいのでしょうか。残念ながら、その答えはまだ見つかっていません。

質問項目:31~40

31.性転換した人は不特定多数の人と性交渉を持つ人が多そうだけど、AIDSの心配は?

この問題は偏見が生んだ事実といったところでしょう。

性別を移行した人達の、特に男性から女性になった人達の中には、生活のために性を売って暮らしている人達がいます。しかし、その中には受け入れてくれる社会が少ないため、治療のため多額のお金が必要といった問題を抱えている人も少なくありません。もちろん、その他の理由で性を売っている人もいますが、それは生まれついての女性であって性を売って生活している人と大差はないと思われます。ただ、性を売って生活している人の割合が、生来的な女性に比べ大きいのは事実でしょう。

また、男性と性交をすることで自分が女性だと強く感じる人や、性交そのものが好きな人もいるでしょうが、その人は性転換という付加価値がついて、マスコミなど取り上げらやすくなり、そういったも誤解を生む原因となっています。

そして、誤った情報や考えから「元男性なのだから、セックスが好きに決まっている」「男が好きだから女になったんだから、セックスが好きに決まっている」と考えている人も少なくありません。

不特定多数との性交、男性同士の性交をAIDSの現況だと考えることが、すでに間違っているのです。いまや、AIDSは性交をすれば誰でもうつる可能性のある、普通の病気です。誰でもが気を付けなければいけない病気であり、AIDSに感染した人も普通の人であり、ここに差別があってはならないのです。

32.最近ビジュアル系と言われているロックバンドなどに、男性なのに女性の様な格好をしている人達が目に付きますが、その中にも性同一性障害の人や同性愛の人がいるの?

男性らしさ、女性らしさというものは、最近は随分変わってきました。15年前でいえば、イギリスの歌手でボーイ・ジョージという男性が女性の格好で歌ってました。最近では、様々な歌手が男性か女性か判らない容姿でテレビなどに出演していますね。そして、 この方々のまねをしたり、アマチュアバンド活動をして男性か女性か判らない容姿でいる人もその範囲であれば社会的に受け入れられるようになりました。

テレビで見かける従来の男女を超越した格好をしている人達の中に性同一性障害の人がいるかどうかはわかりません。しかし、性同一性障害の人の中にもこれを隠れ蓑にして、また、趣味と実益をかねて、異性装をしたり、男女を超越した格好をする人も見受けられます。

33.望みの性別で生活している人の中に、身分を偽ったり公的書類などを偽造している人がいると聞きましたが、それは法的にも社会倫理的に許されるの?

確かに、この様なことは身分詐称であり、公文書偽造にもなるでしょう。しかし、性同一性障害についてほとんど理解のない世の中で、彼らはどうやって望みの性別として生活をすればいいのでしょうか。たとえ、どんなに立派な経歴を持っていても、性別を変えた人を会社は受け入れるでしょうか。まずは難しいでしょう。たとえ、受け入れてくれるとしても小さな会社だけでしょう。また、元の性別を知られたままで、周囲が望みの性別として受け入れてくれるでしょうか。これもまったく普通に望みの性別として扱われることは不可能でしょう。彼らが望みの性別として生活するには致し方のないことなのです。

幾つかの国では性別再判定手術を受ける前であっても、ある程度の治療が進むと、身分証などを望みの性別に変更することができます。しかし、日本の場合、性同一性障害に対する法的な措置はまだありません。そして、旧態依然とした戸籍法に基づき、全ての書類の性別が戸籍によって決定されています。

戸籍による差別問題は、今でも部落出身者や帰化した人、非嫡出児などにみられます。

性別再判定手術を受けるには、望みの性別として十分に適応してなければならないのに、日本ではすでに性別再判定手術を受けている人の性別の変更も許可されてはいません。この矛盾のなかで、望みの性別になろうと努力しているのですから、治療や生活のために性同一性障害である人が性別を偽ることぐらいは仕方のないことではないでしょうか。

戸籍の性別を訂正するために、訴訟を起こしたり、法律を変えたりすることは大変な時間と労力、そしてお金が必要とされます。最近では、遅々として進まない夫婦別性の法案化に対し、自治体単位で夫婦別性を認めるケースも出てきました。同様に、性同一性障害の人にも法的な問題が解決する前に各自治体が何らかの対応を示してくれると良いでしょう。

34.性同一性障害の人達が差別を受けていると言っていますが、どんな差別があるの?

まずは、おかま、おなべ、ホモと言った別称で呼んだり、変態扱いすることは論外でしょう。

性同一性障害の人の場合、その人のおかれている立場によって受ける差別が異なります。

性別を移行し望みの性別で生活を送っている人にとっては、戸籍謄本や住民票、年金手帳の提出が難しいため、正社員として会社に勤めることが困難であること。パートナーがいても婚姻ができないこと。保険証の性別の記載が生活している性別と異なるため、病気になっても病院に行きづらいこと。役所や警察で身元確認を受ける際に性別の記載と姿が異なるのでトラブルを生じること。パスポートに記載されている性別と外見がことなるため、旅行会社との契約や入管手続きの際にトラブルを生じること。生命保険に加入することが難しいこと。選挙の際、投票状に記されている性別と外見がことなるため、トラブルとなることなど細かいことを挙げると切りがありません。戸籍や住民票に直接基づく、仕事や結婚、そして保険証などが生活のために高い障壁となっているでしょう。その他のものは、生活に占める割合が低いので極力避けることはできますが、これらをことある度に回避しなければならないのは大変不自由です。また、これらの問題に真正面から立ち向かうと、その度差別と戦わなければなりません。役所や病院などは守秘義務がありますが、 これが守られる保障はどこにもないので、常に自衛し続けなければならないのです。

性別の移行を終えてない人、移行することが難しい人、現状の男女という性別の二分制以外の性別を望む人は更に困難を生じます。

これらの人は望みの性別として扱われることはおろか、現状の男女という性別の二分制の社会に加わることすら困難になります。奇異な目で見られたり、変態扱いされ、嘲笑されたり、のけ者にされたり、といった具体的な差別を常に受けています。トイレや、更衣室などの生活上で男女分けが絶対の場所を使用するときはかなり神経を使います。また、 性別を移行する人への偏見は強く、差別を受けていることは訴えてもまともに話しすら聞いてもらえないでしょう。

そして、直接的な差別を一番受けているは異性装者でしょう。

彼らは通常、パートタイムに異性装を行っているので、生活上の困難さはあまり感じられません。しかし、異性装をすることの理解はしてもらえず、異性装の行為も大半は秘密であり、異性装をしている時も隠花植物のようにひっそりと過ごさなければならないのです。

異性装者と呼ばれる人の中には性同一性障害の予備群、または性同一性障害であっても、性別違和感を異性装することで押さえられる人もいます。しかし、異性装者の大半は女性の衣服を身につけることで性的興奮をする人、異性装をして女性になった空想をし、女性を演じることで性的に興奮する人などのフェティシズム的な人だといわれています。

これらの中から性同一性障害の人だけを見分けるのは困難です。また、フェティシズムを理解するには更に高度な知識が要求されるでしょう。たとえ性同一性障害や、異性装者や、フェティシズムであっても差別はあってはならないのですが、異性装者やフェティシズムが現代の社会に受け入られる方法は見当がつきません。

35.理解して欲しい、差別しないで欲しいと言っても、姿を現さない人達をどう理解すれば?

確かに、差別を受けていない人からみたらこのことは矛盾に感じるでしょう。

では、差別をされている人達で姿を現している人達がそんなに多くいるでしょうか。

多分、我々の目に付くのは身体障害者、在日外国人、そして女性労働者といったところではないでしょうか。部落出身者、精神障害者、AIDS感染者などといった人達はどうでしょうか、姿を現しているのはごく一部の人ではないでしょか。

差別を受けるといっても、それに対する偏見の度合いや、認知や理解度、そして同情され易さが問題となってきます。偏見が強く、理解されず、そして同情されにくい差別問題では、当事者が姿を見せるより、まずは、知識としてそのことを理解してもらうことが重要なことだと思います。そのことが、差別を受けている人を目前にしたときの相手の対応に実を結ぶこととなるでしょう。

36.性同一性障害とは「男性社会から逃げ出したいがために男性から女性になる、男と同格になりたいから女性から男性になる」というようなエゴにしか思えないのですが、違うの?

異性装者の一部や、自分の性別に違和感や不快感を抱いている人であって、そのことを誰にも告げられず、一人で性別の移行に取り組んでいる人は周囲の理解を得易くするためにこの様な回答をすることがあります。

さて、「男性社会から逃げ出したいがために男性から女性になる、男と同格になりたいから女性からなる男性になる」という理由で、性別を移行して何が得られるのでしょう。 望みの性別に移行出来たときに得られるのは精神の安らぎだけです。しかし、性別を移行するということだけでも、不確実でなんの保障もありません。また、性別の移行に成功したとしても、現状では不安定で危険な生活を送ることとなります。

性別を移行するということは得るものは少なく、失うことばかりです。果たして、「異性の方がいいから」と言った理由だけで性別の移行を行えるでしょうか。

37.障害だの人権だのと言っても、性同一性障害の人の行動が親兄弟を含む周りの人に迷惑をかける以上、個人のわがままに思える…。

性同一性障害の人が性別を移行したり、異性装をすることにはかなりの偏見や差別を受けます。さらには、「親の育て方が悪い」とか、「親族に変態がいる」といったことで偏見や差別は性同一性障害の人の家族にまで及ぶでしょう。

性同一性障害の人は自分が性別を移行するための何らかの行動を取れば家族に迷惑をかけることは知っています。それ以前に、性同一性障害の人は自分の性別に対する違和感や不快感、そして性別を移行したいという欲求に対し、「自分はおかしいのではないだろうか」「変態ではないのだろうか」と自分自身も悩んでいます。自分自身が理解できず、しかし、どうあがいても性別の違和感や不快感、性別を移行したいという気持ちが消えないのです。そして、自分が自分らしく生きようとすることで、家族に迷惑をかけてしまうことに対しても長い間苦悩します。ある者は、家族と離れることで性別を移行するきっかけを作ります。またある者は、口に出せない自分の思いを家族に気が付いてもらいたくて、 反抗、万引き、拒食、自殺未遂といった、SOSを発する行動を起こしたりもします。一人っ子や跡取り、親が名士ともなるとこの苦悩は更に増すでしょう。

同一性障害の人への偏見や差別が容易に取り除ければよいのですが、親、兄弟、友人、それらの人の知人と、当事者から距離が離れるほど理解は難しくなるでしょう。

性同一性障害の人の家族が理解を示し、それ受け入れ、苦悩を分かち合い、共に差別や偏見と戦っていただければ一番良いことだと思われます。しかし、現実には性同一性障害の人の家族の生活を守ることも重要ですので簡単には行かないでしょう。

このような場合、性同一性障害の人が性別を移行する際には、「家族の縁を切る」といったことではなく、「当事者とその家族が理解しあった上でお互いと距離を置く」とか、「お互いの利害を考えた上で行動を制約する協定を結ぶ」こという妥協点を得ることが最善なのではないでしょうか。

38.私の周囲に性同一性障害の人がいるようですが、どんな対応がベストなの?

対応は各々によって異なります。まずは話し易い関係を作り、理解に努め、あなたのできる範囲で普通に付き合うことだけでいいと思います。相手が十分に健常である場合はあなたが相手に対し生理的に抵抗を感じる点を除いて普通に接すれば良いでしょう。

また、相手が精神的に弱っている場合には近寄り方に注意が必要です。なぜならば、あなたが「この人なら理解してくれる」と思われ、相手に依存されてしまう恐れがあるからです。こうなると、性同一性障害の人に近寄ったあなたにとってもかなりの負担となります。自分の余裕のなさから相手を傷つけてしまう可能性もあります。もし、あなたが精神的に余裕があり、慈愛に満ちているのならばそれも受け入れられるかもしれません。そうでないとしたら、この場合は自助グループの人や専門家にまかせた方が良いでしょう。

話を聞く際には性同一性障害の人の言うことがどこまでが本当であるかということも問題となるでしょう。あまり親しくなければ、トラブルを避けるため、あまり本当のことを言わず、相手が納得しやすい返答をしてすましてしまうでしょう。また、性同一性障害であっても自分自身をまだ理解し切れていない人もいるでしょう。

例えば、女性から男性に移行しようとしていると思われる人に「どうしてスカートをはかないの」と尋ねたとします。本心を言える間柄なら、「実は男になりたいんだ」とか、「女性でいることが嫌なんだ」と答えるでしょう。しかし、関係が浅い場合には、「昔からスカートは嫌いなんです」とか「男っぽいからスカートは似合わないんです」と答えるでしょう。

同様に、男性から女性に移行しようとしていると思われる人に「どうして女性になりたいの」と尋ねたとします。本心を言える間柄なら、「自分は物心ついてから男性だと思ったことは一度もありません」とか、「男性でいることが嫌なんです」と答えるでしょう。 しかし、これをゲイバーなどでホステスに尋ねた場合には、「男性が好きだから」とか 「初体験の相手が男性だったから」といったことを答えるでしょう。

第三者が性同一性障害の人から本音を聞き出すことは容易ではありません。また、性同一性障害の知識を持たずこの様な人の話の中から本音をくみ取ることは大変なことだと思われます。

39.同性愛者の一部はカミングアウトをして自分の性のあり方を公表し理解に勤めたり、差別に立ち向かう人達がいるようですが、性同一性障害の人達はしないの?

最近、カミングアウトと言って自らの立場を公開する人もいることは事実です。しかし、多くの人がカミングアウトをしているでしょうか。

カミングアウトとは自分の抱えている問題を公表して、理解してもらうようにしたり、差別に立ち向かうことです。しかし、それをすることで「差別や偏見と常に戦わなければならなくなる」といったリスクも抱えなければならないのです。

ですから、カミングアウトをする人は「自分らしく生きるため」「理解してもらい差別をなくすため」といった高い理想と、差別や偏見と常に戦わなければならなくなる」といったリスクを秤に掛け、行っているわけです。そう、カミングアウトとは自分の意志で行うことで他者により勧められるものではないのです。

では、性同一性障害の人ではカミングアウトとはいったいどういうことでしょう。

性別の移行の途中の人や性別の移行が困難な人、男女という現状の性別の二分制以外の性別を望む人らが、自らの行っていることや立場を理解し認めてもらうために告白する場合」と、「すでに希望する性別で社会に溶け込んでいる人が過去の経歴を周囲に告白する場合」の二通りが考えられます。

性別の移行の途中の人や性別の移行が困難な人、男女という現状の性別の二分制以外の性別を望む人達の場合は、たとえ本人がカミングアウトを望まなくともその容姿から生活上カミングアウトを要求されることもあります。

すでに望みの性別で生活している者がカミングアウトすることは、元来はその性別ではないことを知られ、望みの性別での生活を失う危険性もはらんでおります。ですから、すでに望みの性別で生活している者がカミングアウトすることは通常は希なことです。

40.性同一性障害を語っている人は男にも女にも見えないことが多いように思われますが、そのような人達の話を幾ら聞いても、言っている事とやっている事が違うように感じる…。

カミングアウトの項で書きましたが、性同一性障害の人の場合、望みの性別で生活している者、すなわち、望みの性別に溶け込める者は通常、表には出てきません。

そして、表に立つことの多い性同一性障害の人は性別の移行の途中の人や性別の移行が困難な人、男女という現状の性別の二分制以外の性別を望む人達、すなわち、男にも女にも見えない者となることとなっているのでしょう。

表に出なければ意見は言えない」「意見が出来なければ立場は伝わらない」といった人達が多い中では、たとえどんな人であろうとも差別を受けている人として表に立ってくれる者は、表に出られない者の意見や立場をも代弁してくれる立派な人達なのです。

質問項目:41~49

41.性同一性障害の人達は全国的にいると言われていますが、サポートはされているの?

性同一性障害の人は日本全国はもちろんのこと、全世界的に一定の割合で存在します。

しかし、その土地や国の文化や宗教などによって性同一性障害の問題を抱えている人の表に現われ易さは大きくことなります。

例えば、欧州の様にキリスト教圏であるが、性同一性障害の治療が医療として認められている場所では、「性同一性障害の人は医療の現場には現われやすいが、社会の上では現われにくい」といったことになるでしょう。東南アジアの一部の国では文化的に性同一性障害の人が受け入れられ易く、医療体制も整っていることから、「性同一性障害の人は医療の現場にも社会にも現われやすい」と思われます。日本では、性同一性障害の人の医療での受け入れは遅れているが、しかし、ニューハーフやミスダンディーといった形で、風俗、またはタレントとして受け入れられている国では、「性同一性障害の人は医療の現場には現われ難いが、特定の社会の上では現われやすい」といったところでしょう。

また、第三世界や、戒律の厳しいイスラム教圏での性同一性障害の人の実状は定かではありません。

日本においての性同一性障害の人のサポート体制については、現在のところ、大都市圏に限られている状態です。これは「性同一性障害の人の絶対数が少ないので、大都市(東京、大阪)以外に自助グループが出来ていない」「性同一性障害が医療として受け入れられてから日が浅く、地方ではまだ、医療現場においても性同一性障害の人を受け入れる体制が出来ていない」「保守性や差別が強い土地では性同一性障害の人の生活は難しい上、 情報が届かない」などが大きな原因でしょう。

最近は、ミニコミ誌やパソコン通信、インターネットを通じ情報の配信が行われています。しかし、10代で悩みを抱えている者にとっては決して入手しやすい情報とは言えないでしょう。

42.少数派の人達はどのグループでも依存的になりがちなようですが、性同一性障害の人達にもそのような傾向はある?

悩みを共有できる者同士がある程度依存し合うのは仕方のないことでしょう。

自助グループに通う者の中には、長い期間差別を受け続けてきたり、悩みを抱え続けてきたりしている者もいます。一生かかっても望みの性別に移行することが難しい人もいます。この様な者の癒し場が自助グループであっても良いのではないでしょうか。

問題は、悩みを抱えている者が、相談相手に強く依存することでその人に迷惑をかけたり、悩みを抱えている者同士が依存しあうことで現実から逃避し続けることにあります。この様な事態が起こらないようにも良い指導者の参加と、自助グループの参加者一人一人が高い意識を持つことが自助グループの運営にとって重要なことと考えます。

43.どこの少数派のグループの中でも内部差別があると言われていますが、性同一性障害のグループでもあるの?

性同一性障害の人達は実に多様で、様々な立場の人がいます。そのため、お互いの無理解による内部差別があるは事実です。

よく問題となるのは性別の移行をすでに完了し望みの性別で他者に知られることなく生活している人でしょう。彼らは、出生の性別が逆転していること以外は健常の男女と変わることがありません。彼らは望みの性別に適応し、過去を他者に知られることなく生活しているため、普通意識やプライバシー保護意識が強く、自分が性同一性障害であることや過去の性別を疑われるような機会を避けます。同時に、「今の生活を脅かす人達には近づきたくない」といった考えを持っています。そのため、彼らは過去の性別を隠すという意識の低い、ニューハーフやミスダンディーといった性別を移行したことを公表している人達や、性別の移行の途中の人や性別の移行が困難な人、男女という現状の性別の二分制以外の性別を望む人などを嫌う傾向があります。

お互いの立場や考えを理解し合わないでいることは問題です。しかし、自分のプライバシーを守るため、自分とは立場の異なった人を避けることは致し方ないでしょう。理想としては、「お互いの立場の違いを理解し合った上で交わることできる点において行動をともにする」ことが最善だと思われます。

44.性同一性障害の人達は自分のやっていることが分かっているのに、病気や障害と言うのは変ではないの?

性同一性障害の人は自分のやっていることが判っているので、病気ではなく趣味や嗜好ではないかと思われがちです。しかし、性別移行のための治療が何もされないでいると、うつ状態になったり、中には自分の性器や声帯を傷つけたり、自殺を図る者がいます。

何らかの治療が必要な者がいる以上、病気や障害と扱われることは当然のことではないでしょうか。

性同一性障害を病気や障害として扱われることに異論を唱えている人は、当事者の中にも多くいます。それは「自分は身体の性別やそれに基づく社会の性別がおかしいのであって、他に何もおかしくない」と感じているからです。

つい10年程前までは、同性愛すらも精神障害とされていました。しかし、同性愛は好きになる対象が同性であるということ以外に、異性愛の人となんら変わることがありません。すなわち、治療する意味もありません。同性愛を人間のバリエーションの一つとして社会が受け入れてしまえば問題はないのです。

現在では、性同一性障害の人は性別の移行に成功した者だけが戸籍の問題はともかくとして健常に生活ができるのです。性同一性障害の人の全てを社会が受け入れてしまえば、 医療は別として、社会の上では特別視されることはなくなるでしょう。

現在では、同性愛は全ての分野から正常であると扱われています。性同一性障害もいずれはこの道をたどるでしょう。

45.性同一性障害を客観的に判断する手法は?

性同一性障害を客観的に判断する手法は残念ながらありません。

全ての性同一性障害の人が精神科に通い、医師の診断書などを持っているわけではないのです。例えば、異性装をしている人が「私は性同一性障害です」といっても素人にはその真偽の判断が付きません。

外国の治療施設によっては性同一性障害用の検査用紙があります。しかし、内容はすでに知られているので、事前に調べることで適切な回答をすることも可能です。また、性同一性障害であることを演じても、性同一性障害の診断と治療には医師が長い期間に渡って観察するので、だまし通すことは不可能でしょう。

たとえ性同一性障害であっても、本人が自己の性別に強い違和感や不快感、そして異性になりたいという意識を芽生えさせ、行動化する以前では、他者がそのことに気が付くことは難しいことでしょう。

46.性同一性障害であっても外見が既存の男性や女性に見えない場合、望みの性別を与えることは社会の混乱に繋がらないの?

性同一性障害の人の中には「性別の移行の途中の人」「性別の移行が困難な人」「男女という現状の性別の二分制以外の性別を望む人」といった男女という既存の性別の二分制に当てはまらない人がたくさんいます。

彼らを現状の社会に受け入れてゆくことは大変なことだと思います。しかし、社会が変わらなければ彼らも救われないのも事実です。今まで、多くの被差別者が前例がないとか、受け入れの体制ができていないといったことで社会から差別を受けてきました。しかし、様々な被差別者が社会に受け入れられてきているのも事実です。

被差別者の受け入れに対し、差別意識を持っている人達は不快を訴えたでしょうが、そのことで社会が混乱したことがあるでしょうか。

例えば、女性管理職が増えたり、外国人労働者が増えて社会が混乱したでしょうか。

被差別者を社会が受け入れるには時間がかります。しかし、受け入れられなければ彼らは永久に被差別者のままでいるのです。これからは「前例がないから受け入れられない」ではなく「どうやって受け入れていったらいいのか」を考えなければならない時代だと思います。

日本は基本的人権の尊重を唱っている民主主義の国です。基本的人権の尊重とは多数派により全てが決められるのではなく、少数派の人の意見も多数派の利益を侵さない範囲で認められることを指します。残念ながら、保守的な日本の社会では人権意識が低く多くの人権がまだ守られていないようです。

47.最近男だか女だかわからない若者が増えてきていますが、性同一性障害を認めるということはそういう人を助長することに繋がる?

近年の若者には大人しい女性が減り、快活な女性が増え、たくましい男性が減り、おしゃれな男性が目立つ様になってきました。社会においてもキャリアーウーマンや主夫といった人も現われるようになってきました。

この様な男らしさ、女らしさ(性役割)の変貌は、力による労働から脱した文化の象徴であり、真の男女平等が進んできたことを示しています。文化的な社会では、人間の能力や役割、行動などを、性別により社会から押しつけられることがあってはいけないのです。

この様な折り、最近の性同一性障害の人の中には、男性から女性に性別を移行した人の中にもかっこいい女性や自立した女性を目指す人も増えています。同様に、女性から男性に性別を移行した人の中にもおしゃれな男性や綺麗な男性を目指す者もいます。

また、性同一性障害の人で男性から女性に性別を移行し、慎ましやかで、男性に依存する女性になろうする人達は、この点を女性解放運動の方々に「女性解放を逆行させる」と避難されることがあります。

近年は、文化、社会の変遷が著しく、年輩の方々がついていくのは容易ならざることだと思います。幼いときに教わってきた価値観を変化させることもまた容易ではないので、 新しい文化を受け入れられないことも少なくないでしょう。「この様なことは個人的に好まない」といった生理的不快感を表明するのはいいでしょう。しかし、「あたりまえだ」 「普通ではない」といった理論的ではない感情論による異論を唱えることは避けるべきではないでしょうか。

48.性同一性障害と環境ホルモンは関係ある?

環境ホルモンは成人男性の精子数の減少や女性の子宮内膜症などの関与が疑われております。特に、精子数の減少は動物実験や汚染地域の動物の調査から環境ホルモンの関与が濃厚に疑われています。

しかし、環境ホルモンの量や薬理的強度からいって、成人の性的行動や感情を変化させるといったことは考えにくいでしょう。

しかし、胎児期の環境ホルモンの曝露については定かではありません。マウスを使った実験では天然の男性ホルモン10兆分の1グラムを胎児期に投与することででメスのマウスの行動を男性化させたという報告もなされています4)。しかし、近代化学工業が発展する以前から性同一性障害であったと思われる人の報告はなされています。また、近年になって、性同一性障害が世界的に増加したなどという報告もなされていません。同様に、 胎児期のホルモン環境の変化が原因と疑われている同性愛者についても有史以前からその存在が認められています。

男性ホルモン作用のある合成ホルモン剤を妊娠中に服用した例では、女児の行動や性器の男性化があったと報告されています。副腎過形成という、男性ホルモンを過剰に分泌してしまう病気でも、女児の行動や性器の男性化があるとも報告されています。これらの場合では、胎児は環境ホルモンより遥かに高い男性ホルモンの曝露を受けています。

49.性ホルモン剤をむやみに投与する危険は?

性ホルモン剤の作用は複雑なので、ここでは性同一性障害の人が使用した際にさらされる危険だけを書きます。

性同一性障害の人の多くは、美容外科や、産婦人科でホルモン剤の投与を受けています。彼らの中には、知識が乏しい医師により性ホルモンの投与をうけていたり、過剰に使えば効果かあると思い過剰に使用をしているものもいます。性ホルモンは女性の経口避妊薬や更年期障害にもよく使われているので間違った使い方さえしなければ、安全性の高い薬といえます。しかし、性同一性障害の治療に用いた場合には後戻りの効かない変化、すなわち不可逆的な変化をもたらします。また、通常の使用では予測のつかない問題を起こすこともあります。そのため、ホルモンの投与にあったては十分な調査と慎重さが求められます。

男性から女性に移行を望む人が女性ホルモン(エストロゲン)を使用すると、使用する量にもよりますが1年ほどで無精子症となり、回復する望みはありません。膨らんだ胸も大きくなってしまうと、元のよう平らにはなりません。男性ホルモンの産生機構も徐々に衰えていきますが、こちらはある程度までは回復可能です。男性ホルモンの低下に伴い、 男性的な性欲や、朝の勃起などが起こらなくなります。射精時の精液量も減り、透明なものに変わっていきます。

女性ホルモンを大量に使用した場合、特に経口剤は肝障害や胃腸障害などもおこします。つわりのような吐き気を催すこともあるでしょう。感情のコントロールが難しくなったりする人もいます。また、大量の女性ホルモンの使用により偽妊娠状態となるため、乳汁分泌も起こるでしょう。男性に女性ホルモンを使用して乳腺が十分に発達することは希ですが、乳腺が発達すれば乳腺炎にもなりやすくなるでしょう。また、女性ホルモンを大量に使用した際には血栓症の危険性も高まります。特に、タバコを1日40本以上喫煙する人は危険性が高いといわれています。

投与を初めて間もない人や不定期に使用している人は一過性のホルモンのアンバランスにより、めまいやほてりといった更年期障害のような症状を経験することもあります。すでに除睾している人は、更年期障害様の症状や骨塩量の減少を予防する上でも女性ホルモンの使用は必須となります。女性ホルモンの使用により乳房が発達するため、乳ガンのリスクは生来的な女性と同程度に高まります。

更に、女性ホルモンの使用は筋肉量の減少、皮下脂肪の増加、基礎代謝の低下といったことがおこり、寒がりや、冷え性になるでしょう。

女性から男性への移行を望む人の場合は、男性ホルモンの使用により、声の低音化や髭や体毛の発育が起こるでしょう。希に頭髪が後退する方もいます。これらは不可逆的な変化で回復は見られません。月経の停止は比較的速やかに起こるようです。しかし、内性器が存在している限り、しばしば帯下などを見ることがあります。

男性ホルモンの使用により皮脂腺の働きが活発となるため、ニキビなどもできやすくなります。また、男性ホルモンは血液中のコレステロール値を上げ、心筋梗塞などのリスクを高めるでしょう。

男性ホルモンの女性の生殖機能への不可逆的な影響は少ないといわれています。しかし、男性ホルモンの長期の使用により膣が萎縮し、膣の自浄機能も低下するので一般細菌による感染が起こりやすくなります。男性ホルモンの使用により卵巣も女性ホルモンの産生機能が低下します。このため、不定期なホルモンの使用は更年期様の症状を引き起こします。また、女性ホルモンの産生を低下させるので骨塩量の減少が心配されます。

大量の男性ホルモンを使用した際には特に肝機能障害が心配されます。日本で発売されている経口の男性ホルモン剤は肝臓への負担が大きく、乱用することは非常に危険です。また、大量の男性ホルモンの使用は時として多幸感や一過性の健忘などを引き起こすことがあります。一般に使われている持続性注射液でも、あまり一定した薬の放出は望めません。そのため、注射してから2・3日は男性ホルモンの血中濃度が非常に高くなり、通常の使用範囲でも精神症状を見せることがあります。

更に、男性ホルモンの使用により内蔵脂肪と筋肉量が増加し体重が増加し、基礎代謝も亢進するので暑がりになるでしょう。

成長期に性ホルモンを使用することはまれなことだと思いますが、骨が十分に成長しきっていない人に女性ホルモンを使用すると不可逆的に骨の成長を止めてしまいます。
※この資料は窪田理恵子さんの「窪田理恵子のホームページ」から転載許可を頂き、
文字表記などの編集を加えた上で掲載したものです。
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